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客観的処罰条件と「共謀罪」における「準備行為」

JUGEMテーマ:学問・学校

 中山研一先生は、「通説は、『客観的処罰条件』……については、構成要件要素ではないので認識も必要でないとしていますが、それも行為の違法性に関係があるとしますと、認識が必要ということになります(佐伯)。」(中山研一『新版口述刑法総論[補訂第2]』(成文堂、2007年)211頁)と述べています。同様に、通説では「客観的処罰条件」とされていた「公務員になったとき」(刑法1972項)は「構成要件要素(違法要素)であり、行為者には、その認識(予見)が必要であると解すべきである。」(浅田和茂『刑法総論[補正版]』(成文堂、2007年)と主張されたり、「客観的処罰条件」を「可罰的違法性……を基礎づける事情と解する立場…からは、当該事情を含む規定が過失で足りる旨の『特別の規定』と解されない限り、故意の対象に含めるべきである。」(松原芳博『刑法総論[2]』(日本評論社、2017年)と主張されたりしています。

 

 しかし、これらの見解で引用される佐伯千仭先生は、実は、可罰的違法要素に還元される「客観的処罰条件」について認識が必要だとは述べていないのです。むしろ、そこでは、「違法要素であっても客観的処罰条件のように必ずしも行為者により認識される必要のないものがあり」(佐伯千仭『四訂刑法講義(総論)』(有斐閣、1981年)250頁)とされているのであり、かつ、立法論としても、「私は故意・過失により包含される必要なき違法要素というものは将来の刑事立法においても、決して消滅するものではないということを信じようとするものである。」(佐伯千仭「客観的処罰条件」、同『刑法の理論と体系 佐伯千仭著作選集第一巻』(信山社、2014年)530頁。初出は1937年の法学論叢)とまで述べられているのです。

 

 このことは、筆者がすでに「構成要件の概念とその機能」『三井誠先生古稀祝賀論文集』(有斐閣、2012年)30頁において、佐伯説のルーツであるザウアーやメツガーらの見解につき、指摘していたことです。つまり、ザウアーらの見解では、構成要件は行為の可罰的違法性を根拠づける要素をすべて類型化したものであるべきであるから、そこには、故意の対象とならない主観的不法要素や、行為の可罰的違法性を左右する「客観的処罰条件」も含まれるべきであると同時に、これらについては故意・過失の対象である必要はないと考えられたのです。もっとも、そこでも、「客観的処罰条件」が成就する一般的可能性(客観的予見可能性)は要求されていました。これは、今日のドイツにおける、「客観的処罰条件」に予見可能性を要求する見解のルーツと考えられます。

 

 つまり、「客観的処罰条件」については、それを「構成要件」の要素に還元しようとしまいと、故意・過失の対象にならないという点については、争いはなかったのです。

 

 むしろ、問題は、厳密な意味での「因果関係」の要否や公訴時効の起算点、そして既遂時期や共犯の成立可能時期の如何にありました。とくに問題となるのは、既遂時期と共犯の成立可能時期です。

 

 既遂時期に関しては、「客観的処罰条件」を「構成要件」の要素とすると、既遂時期がその成就の時期まで遅れます。ゆえに、未遂処罰が可能な犯罪では、「客観的処罰条件」が成就しなくても未遂処罰は可能という結論が出てきます。しかし、日本では、そんなことを考えている学説はありません(さすがに佐伯先生は、すでに先の1937年の論文で、この難問に挑んでいましたが、未遂としても処罰されないという結論の根拠づけに成功しているとは思えません)。

 

 さらに深刻なのが、共犯の成立時期です。「客観的処罰条件」を「構成要件」の要素でないとする通説では、処罰条件成就とは関係なく犯罪は既遂ないし終了しますので、その後は、「客観的処罰条件」の成就に関与した人物は当該犯罪の共犯とはなりません。しかし、これを「構成要件」の要素とすると、処罰条件の成就によって初めて当該犯罪は既遂になり得るので、「客観的処罰条件」の成就に関与した人物は当該犯罪の承継的共犯となり得ることになります(この問題については、さすがの佐伯先生も、考察した形跡がないですね)。

 

 想像してみてください。事前収賄罪(刑法1972項)において、公職の立候補者が一部の者から賄賂を受け取ったことはうすうす知っていたにもかかわらず、その人物に投票して当選させた有権者が、同罪の承継的共犯とされる世界を。また、詐欺破産罪において「破産手続開始の決定が確定したとき」を構成要件要素とすることで、財産隠匿行為があったことを知りながら「破産手続開始の決定」をした裁判官が同罪の承継的共犯とされる世界を。

 

 このような恐ろしい世界は、これらの「客観的処罰条件」を「構成要件」の要素とすることから論理的に出てくる帰結です(この問題も、すでに前掲『三井古稀』47頁で指摘しました)。

 

 さて、いわゆる「共謀罪」(組織的犯罪処罰法6条の2)では、「その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき……計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたとき」が「構成要件」の要素なのか、それとも、単なる「客観的処罰条件」なのかが争われています。法務省の林刑事局長は、これを「構成要件」の要素とする趣旨のようですね(同旨、今井猛嘉「組織的犯罪処罰法の改正とその意義」論究ジュリスト232017年)102頁)。しかも、「計画行為」と「準備行為」は相互に独立した行為だというようです。

 

 しかし、そうなると、この罪は、前半の「計画」が非身分犯、公判の「準備行為」が「その計画をした者」に主体を限定された身分犯ということになります。刑法65条を適用しますか?それも、当該「準備行為」につき、「共謀罪」より法定刑の軽い「予備罪」があった場合には652項の適用が問題になるのに。「計画をして準備をした者は」と規定しておけば、単なる結合犯(=二行為犯)で済んだのにね(でも、それだったら、予備罪の拡張で済んだでしょうね)。

 

 加えて、「準備行為」のみに関与した人物は、この身分犯である後半部分についての「非身分者による承継的共犯」ということになります。「準備行為」が単なる「客観的処罰条件」にすぎなければ、それを処罰する予備罪がない限り、関与者は処罰されないはずなのに。つまり、林刑事局長の見解は、おそらく「構成要件」の要素とする見解のほうが、法案に対する問題性は少ないと思ったのでしょう。でも、実は、こちらのほうが、とんでもない見解なのです(このことは、松宮孝明「組織的犯罪処罰法改正の問題点」論究ジュリスト232017年)110頁で指摘しました)。

 

 なお、誤解を避けるためにいえば、訴訟法上は単なる「客観的処罰条件」でも「罪となるべき事実」(刑訴法2563項、3351項)であり、「厳格な証明」の対象になります。また、その認定には「合理的な疑い」を超える証明が必要です。なぜなら、それは、実体法上、具体的な犯罪行為を理由として発生しうる国家の具体的な「刑罰請求権」の成立要件だからです。ゆえに、単なる「客観的処罰条件」だからその証明がいい加減であってよいとすることにはなりません。

 

 その結果として、「共謀罪」は、「計画」についても「準備行為」ついても、「できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定し」(刑訴法256条3項)て訴因を明示しなければなりません。これは、単なる予備罪の共謀共同正犯より「実行行為」が広いため、高いハードルを超えなければならいということです。

 

 「客観的処罰条件」に関わる解釈問題は、おそらく司法試験ではほとんど出題されません。そのため、実務家のほとんどは、そして理論家のかなりの部分も、これについて十分な考察を行っていないように思います。しかし、基礎理論の学習をいい加減にすると、こういうところで思わぬしっぺ返しを食うのです。だから、試験に出る論点か否かという観点で勉強するだけではなく、犯罪体系論の基礎をしっかり押さえておくことが、実務家にも理論家にも必要なのです。

 

 そして、たまには、司法試験において、こういう基礎的な問題も出題しておかなければならないのだと思いますよ。

 

 以下の問いに答えよ。

 

 いわゆる「客観的処罰条件」の具体例を挙げ、それを「構成要件」の要素に還元する見解について論評せよ。

 

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