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「変造」という言葉の意味

JUGEMテーマ:学問・学校

「森友学園問題」をめぐる文書改ざん事件でクローズアップされている、刑法155条の公文書偽造罪と刑法156条の虚偽公文書作成罪ですが、一部では、大阪地検特捜部が、改ざんされたあとの文書の内容が「虚偽」であるとは言えないという意理由で、この件を不起訴にするという話も囁かれています。

 

そこで、本日は、この文書犯罪を取り上げて、学問的に解説したいと思います。

 

特捜部が用いているのは、刑法156条の(有印)虚偽公文書作成罪または同条にある「変造」罪だと思います。この条文は、その前にある155条の公文書偽造罪等と異なり、作成名義人の名をかたって他人が文書を作成するのではなく、文書作成権限のある公務員自身が、ただ内容に虚偽のある公文書を「作成」または「変造」したことを犯罪とするものです。

 

ところで、その155条にも「変造」という言葉があります。同じ言葉ですね。そこで、155条にいう「変造」と156条にいう「変造」はどう違うのだろうという問題が出てきます。そこで、通説は、156条の「変造」は、すでに成立している文書の同一性を保ったまま、名義人等の作成権限者が、その内容を虚偽のものに改ざんした場合をいうのだと解釈しています。そのため、156条の「変造」罪になるためには、改ざん後の文書内容が虚偽でないといけないという結論になるのです。

 

他方、155条の「変造」は、通説によると、名義人以外の者がすでに成立している文書の同一性を保ったまま、その内容を勝手に変えることを意味し、その代わりに変更後の内容が虚偽であることは要しないと解しているのです。

 

しかし、ここに問題があります。名義人がすでに成立している文書を勝手に改ざんしたが、改ざん後の文書内容が虚偽であるとまでは言えないときはどうなるのか、という問題です。たとえば、ある会合があったという記録の中から「○○さんがそこに出席していた。」という一文を削っても、それだけでは、この会合があったことは事実なら、この文書内容は虚偽のものに変更されたとは言えません。

 

もっとも、この「○○さんがそこに出席していた。」という部分が刑事事件の証拠として重要な意味を持つ場合には、裁判所はこれを「証拠変造罪」(刑法104条)にはしています。また、文書の一部を消し去った場合には、文書毀棄罪(公用文書なら刑法258条、私用文書なら259条)になる可能性もあります。ただ、この場合の法定刑は、155条や156条より低いですね。

 

また、いずれにしても、利息について不満を持っていた債務者が、債権者に差し入れていた借用証書をこっそり改ざんして、その利率を低くする改ざんをした場合に、文書偽造・変造系統の犯罪にならないというのはおかしいのではないか、という疑問も出てきます。

 

そこで通説なのですが、通説を支える論拠に、155条は「有形偽造」を対象とするもので、それは名義人以外の者が勝手に文書を作成したり改ざんしたりする場合をいい、これに対し156条は「無形偽造」を対象とするもので、それは名義人等の作成権限者によって行われる場合でも、文書内容が虚偽となるのであれば、公文書については(公務所に提出する診断書もそうですが)内容の真実性も刑法で保証すべきであるがゆえに、犯罪とされているのだと説明します。ここでは、「有形偽造」とは名義人等以外の者が主体となって名義人になりすます場合であり、「無形偽造」とは名義人等が主体となって虚偽内容の文書を作ることだとされているのです。

 

しかし、最近、この前提に重大な疑問があることが明らかにされました。通説の前提である「有形偽造」と「無形偽造」の区別は、「名義人になりすますこと」と「虚偽内容の文書を作ること」に対応した言葉ではないというのです。それは単に、――フランス刑法において――「形を見てわかる偽造(広義)」と「形だけではわからない偽造(広義)」とを区別するだけのもので、証明の難易は別にして、刑法解釈上は重要な区別ではないというのです。つまり、「有形偽造」とは、誰かが他人のサインをまねて文書を偽造した場合に、そのサインの形から偽造がわかる場合を言うのです。「無形偽造」は、そうでない場合ですね。詳しくは、九大の井上宜裕の手による「フランス刑法における文書偽造」(http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/17-56/005inoue.pdf)を読んでください。まさしく「目から鱗が落ちる」体験をすることになります。

 

ですので、155条は「有形偽造」で156条は「無形偽造」だとする通説の基盤は、根底から揺らいでしまったのです。

 

ついでに、もともと「変造」(ドイツ語でVerfälschen)は、確定した文書を勝手に書き換えることを言い、その主体には名義人をも含むというのが、「変造」の母国であるドイツの通説です(日本では、内田文昭先生とたぬきの見解です)。Tröndle / Fischerの刑法注釈書なんかだと、名義人以外の者がやったばあいにはたいてい「偽造」になってしまうのだから、「変造」は名銀が主体である場合に意義があるとまで述べています。

 

要するに、文書というのは、名義人が間違いなくその作成者であることばかりでなく、その作成日付にその内容で「確定」されたことも重要なのです。そして、「偽造」は名義冒用を、「変造」はこの確定性の侵害を意味する概念だということなのです。先に「有形偽造」があって、その中で「(最狭義の)偽造」と「変造」の区別があるというのではないのです。

 

そうなると、正規の修正手続を経ていない、今回のような改ざんは、見事に、155条の「変造」に当たります。しかし、そうすると、立法者はなぜ、156条にも「変造」を規定したのでしょうか?その答えは、156条全体が内容虚偽の公文書の成立に関するものであることを考えれば、すぐにわかります。つまり、「虚偽作成」は虚偽内容の公文書を新たに作ることであり、「(虚偽)変造」は、正規の修正手続を経ているが、すでに成立している公文書の内容を、その同一性を保ったまま、虚偽に変更することだというわけです。公文書の場合は、作成ないし修正の主体は正しくても、内容が虚偽であれば犯罪になるという趣旨だと考えればよいでしょう。

 

このように、主体から名義人を排除する点でもはや何らの正当性も持たないのが、通説的な156条「変造」解釈なのです。ですから、この機会に、検察庁も解釈を改めたらよいのに、と思います。

 

ただ、仮に、そのように正当性のない通説によっても、たとえば国会で配布された、改ざん後の文書(もちろん、改ざんなどなく、その作成日付にその内容で成立したものとされていた文書)の「写し」――国会議員に配布されたのは「写し」ですからね――は、たとえば虚偽内容の戸籍謄本――「謄本」というのも「写し」のことですね――と同じく、「配布用写し」という文書としては――作成日付に成立した文書をそのまま写したとする点で――虚偽内容なので、この限りでも虚偽公文書作成罪(156条)になりますね。問題は、政治的にではなく、学問的に考えましょう。

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